五輪が開催される今年、パラスポーツへの関心が高まっています。
そのアスリートたちを支えているのが、さまざまな競技用具。
陸上競技用車いすを製作する狭山市の八千代工業(ヤチヨ)を取材しました。

カーボン技術を駆使した陸上競技用車いす
八千代工業は1953年設立。
樹脂製燃料タンクとサンルーフを主体とした自動車部品の研究開発・製造・販売を主要事業にしています。
その同社が、陸上競技用車いす事業に参画したのは2013年。
本田技術研究所からの声掛けがきっかけでした。
「“世界で一番軽い車いすレーサーをつくる”ことを目指して、本田技術研究所とホンダR&D太陽との共同で研究開発に取り組むことになりました」と開発本部の森田広伸さん。

製品の大きな特徴は、軽くて強い性質を持つCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を使った同社のカーボン技術。
板金プレス部品や樹脂製品の生産で培ったノウハウと高い技術力を駆使することで、カーボンフレームを採用した量産モデルの車いすレーサーが2014年に誕生しました。
一人ひとりの身体と一体になる設計に
製品づくりは、アスリートが座った状態で身体を3Dスキャンすることから始まります。
その計測データをもとに体のラインに合う形状を決定。
さらに構造解析を行い、型がつくられます。型ができあがるとカーボンを貼る作業に。
1枚ずつ手作業で貼り合わせていく緻密なもので、高い技術力が要求されます。
貼り終えた後は、ふとん圧縮袋のように袋に入れて空気を抜く「真空引き」を行い、窯に入れて焼き上げへ。
繊維が一体となった美しいフレームが生まれます。
選手とともにつくりあげる車いすレーサー
その後、各部品を装着し製品完成となりますが、大切なのはここから。
「乗り心地やベルト位置の調整など、より成績が出せて戦闘力がある競技用具となるように、選手と一緒につくり上げていきます」と森田さん。

そこにあるのは、障がい者スポーツの発展と「1秒でも速く」「風をきって走る喜び」を多くの競技者と共有したいとの思いです。
「当社には日本人史上初の夏・冬パラリンピック金メダリストに輝いたアスリート・土田和歌子選手が所属し、東京2020パラリンピック大会でのトライアスロンとマラソンの2種目での金メダルを目指しています。積極果敢に挑戦する姿に力をもらっています」。
選手とつくり手の思いをのせた車いすレーサーから“勝利の笑顔”がたくさん花開くことが期待されます。